平面ベクトルの基本 ― 成分・大きさ・内積・なす角
ベクトルは、図形の問題を「計算」で解けるようにしてくれる道具です。補助線のひらめきがなくても、式を立てて計算すれば長さや角度が求まります。この記事では成分と大きさから始めて、内積となす角の求め方までを、公式がなぜそうなるのかを中心に解説します。
1. ベクトルは「向き」と「大きさ」だけをもつ
「東へ3km進む」と「北へ3km進む」は、進む距離は同じでも結果がまったく違います。このように向きと大きさの両方をもつ量をベクトルといいます。速度や力もベクトルの仲間です。これに対して、長さや面積のように大きさだけで決まる量はスカラーと呼ばれます。
図形では、点Aから点Bへ向かう矢印をベクトル AB→ と書きます。Aを始点、Bを終点といいます。1つの文字で表すときは a→ のように書きます。この記事では、ベクトルはすべて文字の上に矢印をつけて表します。
ベクトルでいちばん大切な考え方は、位置は気にしないということです。向きと大きさが同じなら、どこに描いた矢印でも同じベクトルとみなします。たとえば平行四辺形ABCDでは AB→=DC→ です。矢印を平行移動して重なるなら等しい、と考えるとわかりやすいでしょう。この性質のおかげで、ばらばらの場所にある矢印を自由に動かしてつなげたり、始点をそろえたりできます。
ポイント
- ベクトルは向きと大きさで決まり、位置は関係ない。
- a→ の大きさ(矢印の長さ)は |a→| と書く。大きさは0以上の実数。
- 和 a→+b→ は、a→ の終点に b→ の始点をつないだ矢印。AB→+BC→=AC→ の形で覚える。
2. 成分と大きさ
座標平面では、ベクトルを「x方向にいくつ、y方向にいくつ進むか」という2つの数で表せます。これを成分表示といい、a→=(a₁, a₂) のように書きます。2点 A(x₁, y₁)、B(x₂, y₂) があるとき、AB→ の成分は終点の座標から始点の座標を引いたものです。
|a→| = √(a₁² + a₂²)成分は「終点 − 始点」、大きさは三平方の定理
図のように、x成分とy成分は直角三角形の2辺になり、ベクトルの矢印はその斜辺です。だから大きさは三平方の定理でそのまま求まります。中学で学んだ「2点間の距離の公式」と同じ計算をしていることに気づくと、新しく覚えることはほとんどありません。
成分表示の便利なところは、和・差・実数倍がすべて成分どうしの計算になることです。a→=(a₁, a₂)、b→=(b₁, b₂) とすると、a→+b→=(a₁+b₁, a₂+b₂)、ka→=(ka₁, ka₂) となります。矢印をつなぐ作業が、数の足し算に置きかわるわけです。
「終点−始点」の順番は、AB→=OB→−OA→ という式からも確かめられます。原点Oを経由して、OからBへ行く矢印からOからAへ行く矢印を引くと考えれば、引き算の順番で迷うことはありません。
3. 内積 ― 2つのベクトルから1つの数を作る
ベクトルどうしの「かけ算」にあたるのが内積です。a→ と b→ の始点をそろえたときにできる角θ(0°≦θ≦180°)をなす角といい、内積を次のように定めます。
= a₁b₁ + a₂b₂左は図形の定義、右は成分での計算方法。結果はベクトルではなく実数
同じ内積に2つの式があるのが面白いところです。左の式は長さと角度という図形の言葉で書かれています。右の式は成分をかけて足すだけの計算です。この2つが等しいことを使うと、「角度の問題を計算で解く」ことができます。
成分の式はどこから来るのか
2つの式が等しい理由は、余弦定理で説明できます。原点Oから a→=OA→、b→=OB→ を描くと、AB→=b→−a→ です。
△OABで余弦定理を使うと、|b→−a→|²=|a→|²+|b→|²−2|a→||b→| cos θ となります。左辺を成分で書くと (b₁−a₁)²+(b₂−a₂)² です。これを展開すると a₁²+a₂²+b₁²+b₂²−2(a₁b₁+a₂b₂) になり、右辺の |a→|²+|b→|² の部分と打ち消し合います。残るのは
|a→||b→| cos θ = a₁b₁ + a₂b₂
という式です。内積の成分公式は、余弦定理を成分で書き直したものだったのです。数学Ⅰで学んだ余弦定理が、ここで形を変えて登場しています。
内積を図でイメージする
内積の意味は「影の長さ」で考えるとつかみやすくなります。b→ の終点から a→ を含む直線に垂線を下ろすと、OHの長さは |b→| cos θ です。これは b→ が a→ の方向に落とした影の長さにあたります。
つまり内積は「a→ の長さ × b→ の影の長さ」です。θが鈍角なら影は反対側に伸びるので、内積は負になります。θ=90°なら影の長さは0なので、内積も0です。内積の符号を見るだけで、なす角が鋭角・直角・鈍角のどれなのかがわかります。
4. なす角・垂直・平行
内積の定義を cos θ について解くと、なす角を求める式になります。ここが内積のいちばんの使いどころです。
θの範囲が0°から180°に決まっているので、cos θ の値がわかればθはただ1つに決まります。三角比で学んだ鈍角の cos がそのまま使えます。cos θ が負ならθは鈍角です。
特に大切なのが、垂直と平行の条件です。
| 関係 | 条件(a→=(a₁, a₂)、b→=(b₁, b₂)) |
|---|---|
| 垂直 a→⊥b→ | a→・b→=0、つまり a₁b₁+a₂b₂=0 |
| 平行 a→∥b→ | b→=ka→ となる実数kがある。成分では a₁b₂−a₂b₁=0 |
垂直の条件は、cos 90°=0 から出てきます。図形の問題で「直角である」「垂直に交わる」という条件が出たら、内積=0 という1本の式に置きかえられます。平行の条件 a₁b₂−a₂b₁=0 は、2つのベクトルの成分の比が等しい(a₁:a₂=b₁:b₂)ことを、分数を使わずに書いたものです。
5. 入試での使われ方
入試のベクトルでは、成分が与えられず「|a→|=2、|b→|=3」のように大きさだけがわかっている問題がよく出ます。そのときに使うのが、大きさは2乗して内積に直すという方法です。
|a→ + b→|² = |a→|² + 2a→・b→ + |b→|²内積は文字式の展開と同じように計算できる
|a→+b→| のままでは計算できませんが、2乗すると (a→+b→)・(a→+b→) となり、(x+y)² と同じように展開できます。違うのは、真ん中の項が 2xy ではなく 2a→・b→(内積)になることだけです。大きさの条件を2乗して内積の値を求め、そこからなす角や別の長さを出す流れは、ベクトルの問題の基本パターンです。
もう1つ覚えておきたいのが、ベクトルで表した三角形の面積です。OA→=a→、OB→=b→ とすると、△OABの面積Sは次の式で求められます。
= 1/2·|a₁b₂ − a₂b₁|S=1/2·|a→||b→| sin θ に sin²θ=1−cos²θ を使って変形したもの
たとえば OA→=(3, 1)、OB→=(1, 4) なら、S=1/2×|3×4−1×1|=11/2 です。角度を一度も求めずに面積が出せるので、座標の問題でも重宝します。右側の |a₁b₂−a₂b₁| が平行条件と同じ形をしているのも偶然ではありません。2つのベクトルが平行なら三角形はつぶれて、面積は0になるからです。
6. 例題
例題1:成分からなす角を求める
a→=(2, 1)、b→=(1, 3) のなす角θを求めなさい。
考え方:成分がわかっているので、内積と大きさを成分で計算して cos θ の式に代入します。
a→・b→=2×1+1×3=5。|a→|=√(4+1)=√5、|b→|=√(1+9)=√10。
cos θ=5/(√5×√10)=5/(5√2)=1/√2。0°≦θ≦180° より θ=45°。
例題2:大きさの条件から内積を求める
|a→|=2、|b→|=3、|a→−b→|=√7 です。このとき内積 a→・b→ となす角θを求め、さらに |a→+b→| も求めなさい。
考え方:成分がないので、|a→−b→|=√7 を2乗して内積の式にします。
|a→−b→|²=|a→|²−2a→・b→+|b→|² より、7=4−2a→・b→+9。よって a→・b→=3。
cos θ=3/(2×3)=1/2 より θ=60°。
|a→+b→|²=4+2×3+9=19 なので、|a→+b→|=√19。
例題2は、2辺が2と3で間の角が60°の三角形を、ベクトルの言葉で言いかえた問題です。余弦定理で解いても同じ答えになります。ベクトルと三角比は、同じ図形を別の道具で見ているだけなのです。
7. よくあるつまずき
つまずき1:内積をベクトルだと思ってしまう
a→・b→ の答えは5や−2のような実数で、矢印ではありません。そのため (a→・b→)・c→ のような「内積と内積」の式は意味をもちません。また a→・b→=0 だからといって、a→ か b→ が零ベクトルとは限りません。垂直な場合も0になります。
つまずき2:始点をそろえずに角を読む
1辺が2の正三角形ABCで AB→・BC→ を求めるとき、なす角を60°としてはいけません。BC→ を平行移動して始点をAにそろえると、2つの矢印の間の角は120°です。よって AB→・BC→=2×2×cos 120°=−2 となります。終点と始点がつながっている形は要注意です。
つまずき3:|a→+b→| を |a→|+|b→| と計算する
大きさは、向きが同じときしか単純に足せません。|a→+b→| を求めるときは、必ず2乗して内積を含む形に展開します。「大きさが出てきたら2乗」を合言葉にしましょう。
8. 練習問題(解答つき)
問1 a→=(2, −1)、b→=(−1, 3) のとき、内積 a→・b→ となす角θを求めなさい。
解答を見る
a→・b→=2×(−1)+(−1)×3=−5。|a→|=√5、|b→|=√10。
cos θ=−5/(√5×√10)=−5/(5√2)=−1/√2 より θ=135°(内積が負なので鈍角になります)。
問2 a→=(x, 3)、b→=(4, −2) とします。a→⊥b→ となるxの値と、a→∥b→ となるxの値をそれぞれ求めなさい。
解答を見る
垂直:a→・b→=4x+3×(−2)=4x−6=0 より x=3/2。
平行:x×(−2)−3×4=0 より x=−6(このとき a→=(−6, 3)=−3/2·b→ となり、確かに平行です)。
問3 |a→|=3、|b→|=2 で、a→ と b→ のなす角が60°のとき、|2a→−b→| を求めなさい。
解答を見る
a→・b→=3×2×cos 60°=3。
|2a→−b→|²=4|a→|²−4a→・b→+|b→|²=36−12+4=28。
|2a→−b→|≧0 より、|2a→−b→|=√28=2√7。
図形の力を、アプリで毎日きたえよう
GeOriginの高校モード「GeOrigin Advance」では、学年別の単元学習を基礎・標準・応用の3段階で進められます。共通テスト形式の問題や発展公式集、毎日1問ずつ取り組める「今日の1問」もあるので、三角比から入試レベルの図形まで無理なく積み上げられます。
無料でアプリを使ってみる →