三平方の定理と特別な直角三角形 ― 1:1:√2 と 1:√3:2 はどこから来るのか
三平方の定理は、中学で習う図形の定理のなかで、高校以降までいちばん長く使い続けるものです。長さを求める問題の多くは、最後にこの定理にたどり着きます。この記事では、定理がなぜ成り立つのかを面積で確かめ、2つの特別な直角三角形の比がどこから出てくるのか、入試でどんな形で使われるのかを整理します。
1. 三平方の定理とは
直角三角形では、直角をはさむ2辺をそれぞれ2乗して足すと、斜辺の2乗になります。これが三平方の定理です。古代ギリシャの数学者の名前から「ピタゴラスの定理」とも呼ばれます。
大事なのは、c が必ず斜辺だということです。斜辺は直角の向かい側にある辺で、直角三角形の3辺のなかでいちばん長くなります。式を立てる前に、図の直角の印を見て、どの辺が斜辺なのかを確かめましょう。
2. なぜ成り立つのか(面積による証明)
三平方の定理には何百通りもの証明があるといわれます。ここでは、中学生でも図を見れば納得できる、面積を使った証明を紹介します。
直角をはさむ辺が a、b、斜辺が c の直角三角形を4つ用意し、上の図のように1辺 a+b の大きな正方形の四すみに置きます。すると、まん中に4辺とも c の四角形ができます。この四角形の角は、一直線の180°から直角三角形の2つの鋭角(和は90°)を引いた残りなので90°です。つまりまん中は1辺 c の正方形です。
大きな正方形の面積を、2通りの方法で表してみます。1つは1辺から計算する方法で (a+b)²。もう1つは、中身を足し合わせる方法で、直角三角形4つ分と青い正方形を合わせて 4×(ab÷2)+c² です。
この2つは同じ面積なので、(a+b)²=2ab+c²。左辺を展開すると a²+2ab+b² なので、両辺から 2ab を引けば a²+b²=c² が残ります。「同じものを2通りに表して等しいとおく」という考え方は、面積や体積の問題でもよく使う強力な方法です。
3. 定理の逆と、覚えておきたい整数の組
三平方の定理は逆も成り立ちます。3辺の長さが a、b、c の三角形で a²+b²=c² が成り立てば、その三角形は c を斜辺とする直角三角形です。辺の長さだけから「直角があるかどうか」を判定できるので、とても便利です。
3辺がすべて整数になる直角三角形の組は、入試で何度も出てきます。次の組は覚えておくと計算がぐっと速くなります。
| 3辺の組 | 確かめ |
|---|---|
| 3、4、5 | 9+16=25 |
| 5、12、13 | 25+144=169 |
| 8、15、17 | 64+225=289 |
| 6、8、10 | 3、4、5 の2倍(36+64=100) |
3、4、5 を2倍・3倍した 6、8、10 や 9、12、15 も直角三角形です。辺を何倍しても形は変わらないからで、これは相似の考え方そのものです。
4. 特別な直角三角形の辺の比
角度が 45°・45°・90° の三角形と、30°・60°・90° の三角形は、辺の比が決まっています。三平方の定理から、その比がどこから来るのかを確かめておきましょう。
45°・45°・90° → 1:1:√2
正方形に対角線を1本引くと、この三角形が2つできます。直角をはさむ2辺は正方形の辺なので等しく、長さを1とすると、斜辺は 1²+1²=2 より √2 です。だから辺の比は 1:1:√2 になります。正方形の対角線は1辺の √2 倍、と言いかえることもできます。
30°・60°・90° → 1:√3:2
1辺が2の正三角形を、頂点から底辺へ引いた垂線で半分に切ると、この三角形が2つできます。斜辺は正三角形の辺なので2、底辺はその半分で1です。残りの辺(正三角形の高さ)を h とすると、1²+h²=2² より h²=3、h=√3 です。だから辺の比は 1:√3:2 です。
比の対応を間違えない覚え方
- いちばん長い辺(斜辺)は、いちばん大きい角(90°)の向かい側
- 30°・60°・90° では、いちばん短い辺「1」が30°の向かい、「√3」が60°の向かい
- 斜辺「2」は短い辺「1」のちょうど2倍。これは正三角形の辺と、その半分の関係
5. 入試での使われ方
三平方の定理は、直角三角形がそのまま出てくる問題よりも、自分で直角三角形を作って使う問題のほうがずっと多く出題されます。代表的な場面を表にまとめました。
| 場面 | 作る直角三角形と、出てくる式 |
|---|---|
| 座標平面の2点間の距離 | x方向の差と y方向の差を2辺とする。距離=√{(x の差)²+(y の差)²} |
| 正三角形の高さ・面積 | 正三角形の半分(1:√3:2)。1辺 a の高さは (√3/2)a |
| 正方形の対角線 | 正方形の半分(1:1:√2)。1辺 a の対角線は √2 a |
| 直方体の対角線 | 底面の対角線と高さを2辺とする。たて a、横 b、高さ c なら √(a²+b²+c²) |
| 円の弦・接線 | 中心から弦に垂線を下ろす/接点と中心を結ぶ。半径が斜辺になることが多い |
どの場面でも、まず直角の位置を決め、そこに直角三角形を描き出すのが出発点です。直角を作るための垂線や、接点と中心を結ぶ線は、補助線の引き方7つの型で紹介した型そのものです。また、直径に対する円周角が90°になることを使えば、円の中にも直角三角形を作れます(円周角の定理)。
6. 例題
例題1(正三角形の高さと面積)
1辺が6cmの正三角形ABCで、頂点Aから辺BCに垂線AHを引きます。AHの長さと、△ABCの面積を求めなさい。
考え方:△ABHは30°・60°・90°の直角三角形です。BH=3cm、AB=6cm がわかっているので、比か三平方の定理で AH を求めます。
BH:AB:AH=1:2:√3 なので AH=3×√3=3√3cm
(三平方の定理なら AH²=6²-3²=27、AH=√27=3√3)
面積=6×3√3÷2=9√3cm²
例題2(2つの特別な直角三角形を組み合わせる)
△ABCで、∠B=45°、∠C=30°、AC=8cm です。頂点Aから辺BCに垂線AHを引くとき、AB、BCの長さと、△ABCの面積を求めなさい。
考え方:そのままでは特別な直角三角形になっていません。垂線AHを引くと、△AHCが30°・60°・90°、△ABHが45°・45°・90°の三角形になります。わかっている辺がある△AHCから先に解きます。
△AHCで、AH:AC:HC=1:2:√3 より AH=4cm、HC=4√3cm
△ABHで、AH:BH:AB=1:1:√2 より BH=4cm、AB=4√2cm
BC=BH+HC=4+4√3(cm)
面積=(4+4√3)×4÷2=8+8√3(cm²)
例題2のように特別な角が2つある三角形は、その間に垂線を下ろすと、2つの特別な直角三角形に分けられます。高校で学ぶ三角比も、この考え方の延長にあります。
7. よくあるつまずき
つまずき1:斜辺でない辺を c にしてしまう
「2辺が 4 と 5 の直角三角形」で、いつも 4²+5² を計算してしまうミスです。5 が斜辺なら、残りの辺は √(5²-4²)=3 です。どの辺が直角の向かい側にあるかを、必ず図で確かめましょう。
つまずき2:√(a²+b²) を a+b と計算する
√(3²+4²) は √25=5 であって、3+4=7 ではありません。根号の中の足し算は、まとめてから√をとります。また √27 や √48 は、3√3、4√3 のように簡単な形に直して答えます。
つまずき3:30°・60°・90° の比の位置を取りちがえる
√3 を30°の向かいの辺にあててしまうと、答えがまったくちがってきます。「いちばん短い辺が、いちばん小さい角の向かい」という関係を手がかりに、図に 1、√3、2 を書きこんでから計算しましょう。
8. 練習問題(解答つき)
問1 次の直角三角形で、残りの辺の長さを求めなさい。(1)直角をはさむ2辺が 5cm と 12cm (2)斜辺が 10cm で、ほかの1辺が 6cm
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(1)斜辺を c とすると c²=5²+12²=169 → c=13cm
(2)残りの辺を x とすると x²=10²-6²=64 → x=8cm
問2 (1)1辺が8cmの正方形の対角線の長さを求めなさい。(2)1辺が10cmの正三角形の面積を求めなさい。
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(1)正方形の半分は 1:1:√2 の直角三角形なので 8×√2=8√2cm
(2)高さは 10×√3/2=5√3cm。面積=10×5√3÷2=25√3cm²
問3 たて2cm、横3cm、高さ6cmの直方体があります。この直方体の対角線(いちばん遠い頂点どうしを結ぶ線分)の長さを求めなさい。
解答を見る
底面の対角線の長さを d とすると d²=2²+3²=13。
対角線は、d と高さ6cmを直角をはさむ2辺とする直角三角形の斜辺なので
(対角線)²=13+6²=49 → 対角線=7cm
(公式 √(a²+b²+c²)=√(4+9+36)=√49 と同じです)
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